急増するパーキンソン病

正しく理解し、きちんと対処!急増するパーキンソン病

高齢化が進む日本国内で、近年急増しているパーキンソン病。
根治の難しい難病ですが、適切な治療を行えば症状の進行を抑えながら生活することは十分可能です。
詳しいお話を脳神経内科の芹澤先生より伺います。

脳神経内科部長

芹澤正博 医師

沼津市出身。2002年より当院勤務。脳神経内科の道を選んだのは「全身を診られる内科の中でもとりわけ未知の部分が多く、さまざまな可能性を秘めた脳神経の分野に奥深さを感じた」のがきっかけだそう。

教えてドクターQ&A

パーキンソン病とはどんな病気?
ひと言でいえば、原因不明の神経細胞の脱落による神経変性疾患の一種です。私たちの体は脳からの指令が筋肉に伝わって動いていますが、その動きを円滑にしているのが脳内にあるドパミンという神経伝達物質。このドパミンを作る神経細胞が徐々に壊れていくことでドパミンが不足し、さまざまな運動症状を起こすのがパーキンソン病です。国内患者数は10万人に150~200人ですが、60歳以上ではおよそ1,000人。高齢になるほど発症割合は増加します。

 
どうして起こるの?
ドパミン神経細胞の減少は、αシヌクレインという異常なたんぱく質が脳内に蓄積することが原因と考えられています。αシヌクレインの蓄積はパーキンソン病発症のかなり前から始まり、神経ネットワークを通じて中枢神経系へ拡がり、さまざまな症状の原因となることが推定されていますが、詳細はまだ十分解明されていません 。
 
どんな人がなりやすい?
性別や生活習慣には有意な傾向はなく、遺伝性も認められていません。発症は60〜70代が多いのですが、脳の神経細胞の変性はその何年も前から始まっています。比較的ゆっくりと症状が進むために早期発見や予防が困難であるというのも治療の難しさのひとつ。また、40歳未満で発症する「若年性パーキンソン病」も稀に見られます。
 

高齢化社会の進行と共に患者数は増加の一途

パーキンソン病は、神経変性疾患の中ではアルツハイマー病に次いで患者数の多い疾患。最初に症状が報告されたのは1817年、発見者であるイギリス人のジェームス・パーキンソンの名前が病名の由来になっています。現在日本国内の患者数は15〜20万人と見られ、その数は年々増える一方(図1)。高齢化社会の進行と共にますますの増加が予想されます。
症状は、大きく運動症状と非運動症状にわけられます。運動症状は発症初期からみられる症状で、「無動」「筋強剛」「静止時振戦」「姿勢反射障害」の4つが特徴的(図2)。特に「静止時振戦」と呼ばれる手足の震えは、何もしていないときに手指が自然に小さく震えるというもの。指先の動きは気にする人が多く、自覚のきっかけとなる症状のひとつです。非運動症状には便秘や起立性低血圧などの自律神経症状、不安、うつなどの精神症状、疲労、痛み、睡眠障害などさまざまな症状が含まれます。これらにはドパミン神経以外の神経系の障害が関わっており、実は運動症状が始まるかなり前から現れていることがわかってきました(図3)。

適切な治療が症状を軽減。前向きに取り組んで

治療には薬物治療、外科的治療、リハビリテーションがありますが、現在中心となっているのは薬物治療。脳の中でドパミンに変換されてドパミン不足を補う「L-ドパ(レボドパ)」は代表的な抗パーキンソン病薬のひとつです。その他にも近年さまざまな薬物が開発され、めざましい成果を上げています。
また、リハビリテーションは早期から導入できる治療で、適度な運動の継続が症状の進行を抑制できることが明らかとなり、薬物治療同様に重要性が注目されています。外科的治療は、薬物治療で十分な効果が得られなくなった進行期の患者さんが対象。脳に電極を埋め込み微弱な刺激を与える方法、胃瘻を設けて持続的にドパミンを注入する方法などが開発されています。
根治困難なことから難病とされてきたパーキンソン病ですが、現在は症状に合わせた治療によって生活を長期間サポートできるようになっています。また臨床研究レベルではドパミン細胞を脳に移植する細胞移植治療や遺伝子治療など、新たな治療法の開発も進行中。患者さんやご家族には、ぜひ積極的に治療に取り組み、日々の生活を前向きに過ごしていただきたいと願っています。