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呼吸器外科

治療について

原発性肺癌について

原発性肺癌は、文字通り肺から発生した癌で、日本人にとって最もかかる可能性の高い癌の一つです。タバコが大きな原因ではありますが、大気中には他にも多くの発癌物質があり、タバコを吸わないから安心というわけではありません。肺癌を治すポイントは、早期発見・早期治療です。肺癌は顕微鏡で見た顔つきで大きく4つに分けられ、このうち扁平上皮癌、腺癌、大細胞癌では、手術が第一選択となります(切除しきれない場合や小細胞癌では、抗癌剤や放射線治療等の内科治療が選択されます)。術式は、肺をある程度のかたまりで切除する肺葉切除が標準とされてはいますが、患者さんの体力や癌の広がりに合わせて決めます。
 

高齢の患者さんが多いため、肺炎等を併発する方も多く、日本全体の手術関連死亡率は3.0%、そのうち術死(術後30日以内に亡くなること)率は1.4%と報告されています。ちなみに、過去私が担当させていただいた387名の肺癌患者さんの手術関連死亡率は0.78%、術死率は0.26%でした。手術前の呼吸・排痰訓練が、よい結果につながったと考えています。お元気に退院なさった患者さんの中には、91歳を最高齢として80歳代の患者さんも多数いらっしゃいます。
 

手術でどれくらいの患者さんが治るのか、私が1991年から2002年にかけて手術をさせていただいた患者さんの5年生存率でお示ししますと、大きさが3cm以下で転移のない病期1A期(早期)の患者さんでは83%で、既に縦隔リンパ節に転移のある病期3A期の患者さんでも44%でした。丈夫で元気な患者さんと巡り合えたことや、静岡の風土が良いことが何よりの理由と考えてはいますが、この成績は、世間で一流と呼ばれる施設と比べても、遜色のない成績だと思われます。なお、残念ながらさらに進行していて、外科手術の適応とならなかった患者さんにつきましても、現在新しい抗癌剤が開発されており、それらを使いこなせる優秀なスタッフが当院呼吸器科におりますので、落胆せずに治療をお受け下さい。
 

当院では、手術の多くを、胸腔鏡という内視鏡を利用して、5から10cmほどの小さなキズで行っているため、術後7日で退院できます。5日で帰られる元気な患者さんも多数いらっしゃいます。ちなみに、術前は呼吸訓練のため手術2日前には入院していただいています。
 

なおトピックとしまして、最近10年で、喫煙をしない女性の肺癌(腺癌)が増えてきました。レントゲンでは非常に淡い影として見えるので、見落とされたり肺炎の跡と間違われることもよくあります。初めのうちはあまり増大しないため放置する方も多くいらっしゃいますが、いずれ濃く大きく肺癌らしくなってきます。薄くて淡い影のうちに手術をすればほとんどの方が治りますので、あまり長く様子を見ないで、早めにご相談ください。このような肺癌を発見するのには、CT検査が有用です。

自然気胸について

自然気胸は、体質やタバコの影響によってできた風船状の肺嚢胞が破裂するため、肺が縮んでしまう病気です。内科療法のみでは再発することが多いので、胸腔鏡を用いて肺嚢胞を切除する手術を行っています。キズは一般的に3つで、1つは1.5cm、あとの2つはそれ以下ですみます。術後は3から4日で退院でき、2週ほどで通常の運動もできるようになります。内科療法よりは、かえって入院期間、入院回数とも少なくてすむと感じています。この手術で患者さんが亡くなった経験は私にはありません。

詳しい説明

肺というのは、胸膜でくるまれたスポンジ状の臓器で、風船のように空気でふくらんでいます。この肺の表面や内部に、薄い膜によるシャボン玉状の組織ができることがあり、これを肺嚢胞(英語ではブラ)と呼びます。肺嚢胞のできる原因は、若年者では体質的なもの(肺が納まっている胸郭の成長に肺組織の成長が追いつかないためにできるとする考えもあり、15~20歳位の背が高くやせた男性によく見られます)、成人・高齢者ではタバコによる肺組織(肺胞)の破壊(=肺気腫、なお壊れた肺は元には戻りません)が主です。
 

肺嚢胞が片側の胸郭の1/3以上を占めるほど大きくなったものを、特に巨大肺嚢胞(ジャイアント ブラ)と呼び、正常な肺組織が圧迫されるため通常 息切れを感じます。
 

大きさに関係なく、肺嚢胞はその膜の薄さゆえ、気圧の変動が著しいときや力んだときに破裂することがあり、肺は縮み、息苦しさや胸の痛みを自覚します。この肺がパンクして縮んだ状態を気胸といいます。緊張性気胸と呼ばれる特殊な進行性の気胸や、左右両側同時に気胸を起こすと、無治療では生命を落とすこともあります。
 

通常の気胸はまず内科療法で対処します(胸腔(=胸郭と肺の間)にドレーンと呼ばれる管を入れ、破裂した肺嚢胞から漏れている空気を外に吸い出し、肺を伸ばしてあげます)。しかし、内科療法にて一旦治癒しても、再発する可能性は50%ほどあり、2回・3回と起こした気胸がまた再発する可能性は90%くらいです。
 

よって、内科療法で再発した気胸、及び初回でも、内科治療で軽快しない気胸、両側におきた気胸、レントゲン写真で肺嚢胞がしっかり見える気胸、そして気胸を起こさなくても症状のある巨大肺嚢胞では、手術を選択します。
 

手術の術式は、肺嚢胞の切除です(巨大肺嚢胞では、稀に肺葉切除を要することもあります)。肺嚢胞の数・量が少なければすべて切除しますが、数・量ともに多く処理しきれない(もしくはすべて処理したら肺機能が落ちすぎてしまう)時には、空気漏れの元になっている肺嚢胞や、健康な肺を圧迫して機能を悪くしている肺嚢胞のみ、切除します。このようなときには、薬や電気メス等による刺激で胸壁と肺をくっつける胸膜癒着療法を追加することがあります。多くの手術は、胸腔鏡(胸腔を覗く内視鏡。1.5cmもしくはそれよりも小さなキズ4~4箇所で手術を行う)のみか、胸腔鏡を使いながらの小開胸5~10cm位)でできます。小開胸では切除しきれない場合(数が多すぎたり、癒着が激しいとき)や、巨大肺嚢胞では、開胸を20cmほどに広げなければならないこともありえますが、ごく稀です。
 

なお、気胸の術後再発の可能性ですが、しっかり開胸した場合は1~3%位、胸腔鏡のみで行った場合は5~10%位といわれています。胸腔鏡のみによる手術は確かに再発の確率は高めですが、体に対するダメージが少ないため、特に若年者の場合は、まず胸腔鏡による手術をお奨めします。なお、最近では再発率を下げるため、肺の特にもろい方には、特殊なシートを用い肺を補強する方法も併用しています。
 

(以上、自然気胸についての説明でしたが、女性の気胸の場合、異所性子宮内膜症や他の病気が原因となっておこることもあり、そのときは術式や治療も多少変わってきます。)(稲葉 浩久)

手掌多汗症について

手のひらに汗をかく手掌多汗症も、胸腔鏡を用いて胸部交感神経節を切除離することにより治療が可能です。これには径3mmの胸腔鏡を使いますので、キズは両側の脇の下(女性では乳房の縁)に小さいもの各2つのみです。いずれこのキズはほとんど見えなくなります。手術翌日には退院です。
 

詳しい説明

我々の体は、暑いときや運動をすると汗をかきますが、これは体温が上がり過ぎないための自己調節です。しかし、手のひらや足底は体温調節とは無関係に、自律神経の一種である交感神経からの信号によって汗をかきます。交感神経は、我々の気が張り詰めたときに信号を出します。多汗症は、発汗に対するこの交感神経の信号が非常に強いことが原因の病気で、精神的な病気ではありません。また、自律神経である交感神経を自分の意識でコントロールすることはできません。
 

手のひらに多少の汗をかくことは自然で、これは問題にはなりません。しかし大量の汗により、テスト用紙や書類がぬれる、筆記用具やハンドルがすべる、コップが持てない、人と握手ができないなど、つらい症状をお持ちの方も少なくはありません。日常生活に不便を感じるようになったら、治療の対象になると私は考えています。治療としてはいくつか上げられます。発汗に対する交感神経の過敏さを効果的かつ安全に抑える薬は残念ながらありません。汗腺に直接作用し発汗を抑える塗り薬は軽症の方には効果があることもあります(皮膚科専門医にご相談ください)。胸部交感神経ブロックは、レントゲンを見ながら背中に針を刺し濃いアルコールを注射して交感神経を麻痺させて汗を止める方法ですが、効果は不確実でほぼ数ヶ月で再発します(この手技は麻酔科医の担当です)。このような状況の中、最近細い胸腔鏡が開発されたことに伴い、胸腔鏡下胸部交感神経遮断術が多汗症治療の主流となってきました。
 

胸腔鏡下胸部交感神経遮断術(以下ETS)は、径3mmと針金のように細い胸腔鏡(胸腔を覗く内視鏡)を用い、両側胸腔内の交感神経を切断する手術で、全身麻酔をかけて行います。キズは両側の脇の下(女性では乳房の縁)に3mmのもの各2つのみ(1つは胸腔鏡、もう1つは神経を切断する器械を入れるためのもの)で、いずれこのキズはほとんど見えなくなります。痛みもごくわずかで、手術翌日には退院です。効果はほぼ全例にみられ、半永久的に継続します。
 

少し難しい話になりますが、手掌多汗症に関っている交感神経は、胸部第2~3、4交感神経節です。各神経節の間隔は2cmほどです。もしこの手術で第1交感神経節を損傷すると、ホルネル症候群という片方のまぶたが半分落ち、顔面・体幹ともに片側の発汗が止まるといった困った状態になります。よって、当院では安全のため、手掌多汗症では第3と第4交感神経節を切断しています。これでも効果は前述のごとくほぼ全例に見られています。ちなみに、腋窩多汗症には第2~5交感神経節が関与しており、これに対し第3~5交感神経節切断を行いますが、こちらの効果は60%ほどです。顔面多汗症は第2交感神経節が関与していますが、効果をねらい過ぎて第2交感神経節の切断を念入りに行うとホルネル症候群を合併するリスクがあります。以上より、多汗症の中でも、腋窩・顔面に比べ、手掌多汗症はETSの良い適応であると考えています。
 

ETSに伴って起きる合併症について述べます。前述のホルネル症候群は、100%起きないとは断言できないものの、当院で今までにおきたことはありません。これに対して、ほぼ100%の方に起きるのが代償性発汗です。これはETSの効果により減った手のひら等からの汗を、体のほかの部分から分泌して補う現象です。背中・胸・大腿部は、術前よりも多くの汗をかくようになります。代償性発汗の量には個人差があり、手術前から顔や体の汗が多い、いわゆる"汗かき"の人には沢山出る傾向があります。代償性発汗は、気温の高い日や運動した時には衣服が湿って不快なものですが、体温を調節する大切な役目を持っています。代償性発汗を納得できない方にはETSをおすすめできません。しかし、ETSは、代償性発汗を受け入れられる方には、非常に効果的で安全な治療法だと考えています。

手術全般について

当院で手術を受けられたら得することを幾つか挙げさせていただきます。今まで述べたことではありますが、まず安全にやらせていただきます。次にキズは小さく、よりきれいにするよう努力します。また術後は、胸に管を入れ胸の中の空気や血液を引くのですが、太い管だとそれだけでも十分に痛いため、他院よりも細い管を使用し、またその管も早めに抜くようにしています。このため、気胸や多汗症は手術したその日の夕方から、肺癌の手術でも翌日の朝から、患者さんには歩いていただいています。また、キズは溶けて吸収される糸で皮膚の下を縫いますので抜糸の必要がありません。皮膚の上には、バイキンが入らないように特殊な糊で被いますので、術後の消毒も不要です。入浴も多汗症で術翌日、気胸で術後3日、肺癌でも術後4日から可能です。当然、手術前後の説明は十分にさせていただきます。
・入院治療は入院治療計画書を基に進めていきます。
 

生命の木

退院が近づいたら、当院玄関前にある「生命の木」に触れて元気をもらってください。病気の治りもさらによくなると思います。

この木は、戦時中に空襲に遭い、熱風と炎に焼かれ、1度は真っ黒な消し炭になってしまいました。しかし、それから3年後の春、炭となった木のてっぺんから、陽の光にきらきらと輝く若芽が顔を出したのです。「こんな姿になってもおまえは生きていたんだ。」と、厳しい戦後復興の中、この木が希望と勇気を与えてくれたと、当時を知る人は言います。空襲からよみがえった木は、今も地面にしっかり立ち、大きく広げた枝に青々とした葉を繁らせ、病院を見守ってくれています。