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股関節・人工関節センター

最小侵襲手術 MIS 人工股関節置換術

①実は最小侵襲でない MIS最小侵襲人工股関節置換術

 MIS(Minimally Invasive Surgeryの略)は最小侵襲手術のことで、侵襲とは組織に与えるダメージのことです。人工股関節置換術のMIS手術は2000年代初めに日本に紹介されました。当初のMIS手術は、皮膚切開を小さくするものの股関節周囲の筋肉は切開する小皮切MIS(Mini oneともいいます)でした。その後、2000年代中頃、小皮切MISでは切離していた股関節周囲の筋を温存する筋温存MISが紹介され、当時は究極のMISとまで言われました。これらの手術をするために、手術器具も進化し、その後、ますます低侵襲化が進みました。
 
 2010年代には筋温存MISでは実は小さな筋肉を損傷していることが判明しました。この小さな筋も損傷しない筋完全温存MISの手技が報告されました。さらにその後、筋肉だけでなく股関節周囲の靭帯(関節包)も温存するMIS手術が報告されました。当初の筋温存あるいは筋完全温存MISでは切除していた股関節周囲の靱帯を温存することで、さらに脱臼しにくい安定した股関節を再建できるようになりました。最近では股関節周囲の筋肉や靭帯に加えて、筋肉の関節包への付着部や組織の間に存在する滑液包などの微小な組織も温存する、超低侵襲なMIS(AMIS、あるいは組織間温存法)も広まりつつあります(図1)。このようにMIS手術は2000年代初頭の小皮切MISから、およそ20年間でかなり進歩したことになります。
 
 しかし、約20年前の小皮切MISも未だに最小侵襲手術MIS、最新の医療技術として宣伝されています。よく「従来は20cm程度の皮膚切開をしていた人工股関節置換術を7cm程度の皮膚切開で〜」のように宣伝されますが、手術器具が発達した現在、20cm程度の皮膚切開で通常の人工股関節置換術をする病院はほぼ皆無です。“最小”は言葉の意味から本来一つであるべきですが、MIS手術の“最小”にはかなりの幅があります(図1)。“最小侵襲“や”MIS“が固有名詞化しており、現在、多くの病院でなされているMIS手術は、小皮切MISであったり、(小さな筋を損傷する)筋温存MISで、文字通りの最も低侵襲な最小侵襲手術ではありません。

②筋温存MISの歴史と”超”最小侵襲手術への発展

 2000年代中頃に日本に紹介された筋温存MISは実は決して新しいものではありませんでした。筋温存MISの手技自体は1940年代にフランスのJudet医師が開発したものです。しかし、仏語のみの報告で、かつ特殊な手術台を必要とするため、あまり他の国に広まりませんでした。2000年代初めにJudet医師の手技が英文で報告され、手術を行うための器具が進化したことで通常の手術台で筋温存MISが行えるようになり、世界各国に手技が広まりました。従って、日本に筋温存MISが渡ったころ、フランスではすでに60年近くの歴史があったことになります。この間、フランスでは筋温存MISの手技はさらに発展していました。1990年代後半にフランスのLaude医師が”most-tissue-preserving surgical technique (組織を最大限温存する手術手技)”を発表しました。この手技は、股関節周囲の筋肉や靭帯(関節包)に加えて、股関節周囲にある筋肉の関節包への付着部や組織の間に存在する滑液包などの微小な組織も温存する手技です。日本には2011年に当股関節・人工関節センター長の西脇がフランス留学後に組織間温存法(AMIS)として紹介しました。この手技は現在あるMIS手術のなかでも低侵襲なMIS手術、言い換えれば“超”最小侵襲手術のひとつとして認知されつつあります。
 
 この組織間温存法(AMIS)は誰もが行える手術ではありません。手術をするには、まずご遺体を使った手術手技のトレーニングをうけなければなりません。その後、初めて組織間温存法(AMIS)で患者様の手術をする際には、必ず熟練者がインストラクターとして手術に立ち会い指導するようなシステムになっています。現在はインストラクターが増え手技の普及に貢献してくれており全国で100名程度の医師が組織間温存法(AMIS)で手術をしています。
 
 当センターでは、患者様にあったできる限り低侵襲な手術を心がけて治療に当たっています。残念ながら変形の程度などにより、すべての患者様に組織間温存法(AMIS)を行うことはできませんが、9割以上の患者様には筋温存MIS以上の最小侵襲手術を行っています。股関節の痛みで困っている患者様、やりたいことが股関節の痛みで制限されてしまっている患者様は是非ご相談ください。通常10日間程度の入院期間を設けていますが、1週間未満の入院でも対応可能ですのでご相談ください。
 

図1:MIS手術の変遷