しずおか日赤メールマガジン

第75号 平成23年11月01日発行


みなさま、こんにちは。
朝晩の空気が涼しくなり、澄み切った高い空に秋の深まりを感じる今日この頃です。秋といえば、「食欲の秋」・「スポーツの秋」・「読書の秋」など、様々な楽しみがあります。紅葉狩りに出かけ、その土地の名物を食すもよし、秋の夜長にいつもとは違うジャンルの作品を楽しむもよし、みなさま思い思いの「秋」を楽しんで下さい。
さて、メールマガジン第75号をお届けします。みなさまには引き続き温かいご支援を賜りますよう、どうぞよろしくお願いいたします。

目次

1. 今月の病院ニュース
最小侵襲人工股関節置換術について

2. インフォメーション
西館の解体工事について

最小侵襲人工股関節置換術について 整形外科 副部長 西脇徹  

かつての手術傾向は、執刀医がなるべく広い視野を確保できるように、切開を大きくするというものでしたが、その分、関節を支える筋肉にダメージを与えてしまい、機能回復が遅れてしまうという難点がありました。
今日では、なるべく小さな切開で手術を行い、ダメージを最小限に抑えようとする方法(最小侵襲(しんしゅう)手術)が開発されています。今回のメールマガジンでは、最小侵襲の人工股関節置換術について紹介します。
※『侵襲』とは医療用語で、ここでは主に「体への負担」を意味します。

  • 変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)
    股関節は骨盤と大腿骨(だいたいこつ)の継ぎ目にあたり、寛骨臼(かんこつきゅう)という骨盤側の受け皿に、大腿骨の先端にある大腿骨頭がはまり込んでいます。寛骨臼も大腿骨頭もすべすべとした弾力性のある関節軟骨に覆われていて、関節が滑らかに動くようになっています。なんらかの原因により、関節軟骨がすり減り股関節機能が障害される病態を『変形性股関節症』といいます。変形性股関節症の治療は、日常生活指導、理学療法、薬物治療などの保存的治療が優先されますが、十分な効果が得られない場合、手術を考慮します。手術には、骨盤や大腿骨の骨を切る「骨切り術」と、関節を金属に置換する「人工股関節置換術」があり、進行の程度、年齢により適応を判断します。

  •  MIS人工股関節置換術
    ここでは、人工股関節置換術の「MIS」についてお話します。MISはMinimally Invasive Surgeryの略で、日本では最小侵襲手術と言われています。しかし、言葉の定義はあいまいで様々なMISがあります。
MISを分類すると、①皮膚切開を小さくしたもの(小皮切MIS)②筋肉と筋肉の間(筋間)から入り筋腱を全く切離しないもの(筋温存MIS)があります。小皮切MISは皮膚切開が小さい分、侵襲も小さいという考え方ですが、筋肉に対する侵襲は従来法と同じです。一度切離した筋腱は再建しても元通りには回復せず、小皮切MISが本当に最小侵襲といえるのかどうか疑問が残るところです。
一方、筋温存MISは筋腱を全く切離しないため早い回復や痛みの軽減が期待でき、さらに脱臼するリスクも少なく、究極のMISといわれることもあります。
さらに、筋温存MISは進入路によって主に2つの方法に分けられます。
一つは、ドイツのRöttinger医師が2004年に発表した「OCM」※1と呼ばれる方法で大腿筋膜張筋(だいたいきんまくちょうきん)の後縁から股関節に入ります。
もう一つは、20年以上前にフランスのJudet医師が始めた「DAA」※2と呼ばれる方法で大腿筋膜張筋の前縁から進入します。
OCMもDAAも筋肉の切離は行わず股関節にいたる大変優れた手術方法で、術後の日常生活動作の回復が早いばかりでなく、脱臼もしにくくなります。また、筋温存MISだからといって手術創が大きいわけではありません。当院の場合は、患者さんの体格、変形の度合いによりますが、約4cmから8cm程度の大きさです。


  • MIS人工股関節置換術と入院期間
    昔は人工股関節置換術の術後、歩行開始まで約2〜3週間かかりました。しかし、長期の安静は筋力低下を来たし下肢静脈血栓症などの合併症のリスクが高くなるため、現在では早期に歩行練習を行う施設が増えています。当院では多くの場合、術翌日より歩行練習を開始し、約10日〜2週間程度で退院となります。私がカナダに留学している際に執刀した患者さんは術後2日で退院していました。これは退院基準の相違によるものです。現在の当院の退院基準は、創部の状態が良好で入浴が可能(早くて術後10日目以降)であること、安定して歩行や階段の昇降ができることです。もし、早期の退院を希望される場合にはご相談下さい。
     
  •  大腿骨頸部骨折とMIS人工骨頭置換術 
    高齢者が転倒すると起こしやすい骨折の一つに大腿骨頸部骨折があります。手術を要することが多く、折れ方により「人工骨頭置換術」の適応になることがあります。人工関節置換術が関節の両側、すなわち骨盤側と大腿骨側を人工物に置換するのに対し、人工骨頭置換術は大腿骨側だけを置換するものです。当院ではこの手術も筋温存MISで行っています。リハビリ期間は、本人の意欲、体力、合併症、痴呆の有無などに大きく影響を受けるため、前述した変形性股関節症に対する人工関節より回復までに長くかかってしまうことが多くあります。通常は、当院で2週間程度のリハビリを行った後、連携しているリハビリ病院へ転院し、継続した長期のリハビリを要します。
     
  •  私のMIS人工股関節置換術
    私は5年ほど前からOCMとDAAを症例によって使い分けて年間100例程度の筋温存MIS人工股関節置換術を行っていました。しかし、2011年1月から3ヶ月間DAA発祥の国・フランスでDAAの様々な技術を学んでからは、殆ど全ての症例をDAAで行っています。フランスでは20年以上DAAを行っている経験豊富な医師の下で学びました。彼らの手術は洗練されており様々な工夫がみられました。大きな違いは、筋周囲に癒着を起こさせないようにすることです。私は留学前には筋腱をよけるレトラクターという器具を設置しDAAを施行していましたが、レトラクターの挿入は筋腱を容易によけられる反面、挿入部分が術後癒着しやすいという欠点もあります。フランスでは、筋周囲へのレトラクターの挿入をさけることで癒着を生じないようにしていました。こういった視点は日本ではあまり無いものだと思います。現在、私はフランスの良い点を私なりに吸収し工夫してDAAを行っています。
    変形性股関節症でお悩みの方、人工股関節置換術をお考えの方は一度ご相談下さい。


    ※1)Röttinger医師の所属するドイツの病院「Orthopadische Chirurgie München」の略。
    ※2)Direct Anterior Approachの略

西館の解体工事について

  旧本館(左)と竣工当時の西館(右)

11月から西館の解体工事が始まります。
西館は、今から43年前、メキシコオリンピックでサッカー日本代表が銅メダルを獲得した1968(昭和43)年に竣工、地上7階・地下1階の鉄筋造りの建物で当院の中で最も古い建物です。
現在では、一部を除き職員の更衣室等として使われている西館ですが、死傷者238名を出した1980(昭和55)年8月の「駅前ゴールデン街ガス爆発事故」では、次々と運ばれる負傷者を1階の救急センターだけでなく、外来や7階の会議室でも受け入れるなど、当院の重要な機能を担ってきました。
解体後は、同じく解体する本館と一つになり、新本館(仮称)として生まれ変わります。
工事にあたり、患者さんをはじめ多くのみなさまにご迷惑をおかけいたしますが、何卒ご理解とご協力をお願い申し上げます。

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