しずおか日赤メールマガジン

第48号 平成21年08月03日発行


 晩夏の候、皆さまいかがお過ごしでしょうか。夏バテはしていませんか?
今年は、例年に比べ梅雨明けが遅れ、各地では大雨による被害が相次ぎました。薄ら寒い日や曇りの日も続いていますが、雲の間から射す日の光は日に日に強くなっているように感じます。夏はもうすぐそこまで来ています。
 さて、メールマガジン第48号をお届けします。みなさまには引き続き温かいご支援を賜りますよう、どうぞよろしくお願いいたします。

目次

1. 今月の病院ニュース
腰痛治療のウソとホント その1

2. インフォメーション
大規模津波防災総合訓練に参加

「腰痛治療のウソとホント その1」 整形外科部長 小川 潤

はじめに

 あの人が勧める腰痛治療だから自分もそれで治るに違いないと思っていませんか?すべての腰痛に効く夢のような治療法ってあるのでしょうか?“切らないで治る椎間板ヘルニア”なんていう本が売れるのも腰痛治療に対する数々の迷信があるからこそ。腰痛治療の世界には科学的根拠のない迷信がはびこっています。せぼねの手術と中枢神経の基礎研究に20年以上携わってきた者として、腰痛治療の真実を語ってみます。

椎間が狭ければダメなのか

 “せぼねとせぼねの間(椎間)が狭くなってせぼねに棘(とげ)が出来ています。それが腰痛の原因ですよ”腰痛や脚の痛みのために病院に行き、そういうレントゲンの説明を受けた方は少なくないでしょう。
 せぼねとせぼねの間にある椎間板という軟骨の中身は正常の場合80%が水分です。年をとると誰でも水気が抜け、弾力性がなくなり、椎間板の高さが減じます。これに伴い椎間関節というせぼねの後ろを支える部分に負荷がかかり腰痛が出ることも時にはあります。 
 痛みというのはある意味、体の発する危険信号です。そして人間は痛みのある状態がずっと長く続くようにはできておらず必ず弱くなったところを修復・補強しようとします。骨の棘(とげ)ができたり、関節が変形するのは、動きを抑えることで痛みを発しにくくする生体の防御反応なのです。したがって椎間が狭くなることがすべて悪いわけではありません。椎間板はむしろ狭くなり動かなくなる方が良い場合もある。椎間板を固定して動かなくする手術があるくらいなのです。

せぼねが曲がっていればダメなのか

 “せぼねが曲がっているのが痛みの原因です”“ずれているせぼねを矯正すれば治ります”。ちょっと待ってください、せぼねは曲がっているのが普通なのです。それに・・・・体の外からせぼねのずれを直すのはお釈迦様でなければ無理でしょう。せぼねは横からみた時、弯曲しているほうが正常です。それでは正面からみて曲がっている(側弯)のはダメなのか?実は側弯と腰痛の関係は全く証明されていません。
 テレビの有名司会者の手術で一躍名の知れた脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアの患者さんに“腰を曲げて(猫背で)歩いてください”と指導するとびっくりされます。腰を曲げることによって神経の通り道が広がり脚の痛みが出にくくなる。姿勢が悪いから腰痛になるのではなく、腰痛を逃避しようとして自然に“見かけの“悪い姿勢になるのです。見かけは悪いがその人にとっては良い姿勢なのです。

椎間板が出っ張っていればダメなのか

 整形外科の診断はMRIの出現と共に格段に進歩しました。お陰で今はMRIがどういう検査であるのかを説明する手間がずいぶん減ったように感じます。“この黒い出っ張りがあなたの痛みの原因です”という説明を受けている方も少なくないようです。確かに痛みの原因の候補であるかもしれません。画像上で出っ張ったものが腰痛の原因であると、どうやって診断できるのでしょう。出っ張りは40代以上になれば程度の差こそあれ誰にでも認められる単なる加齢現象であり、腰痛とは直接関係のないものです。
 ではどうやったら両者を結びつけることができるのでしょう。これを診断する要は患者さんの中にあります。整形外科の診察室にハンマー・刷毛・音叉などが置いてあることを不思議に思った方がいらっしゃるかもしれません。これらは古典的ですが今もなお最も重要な神経学診断の道具なのです(写真1)。また入院の検査になりますが、神経根造影という特殊な検査で痛みの原因となっている神経の番号を調べます(写真3)。このようなもので障害されている場所を特定し、その上でMRIなどの画像に向かう。両者が一致することで始めてそこが腰痛の原因だと言える。われわれは画像だけを見て診断することはありません。まず患者さんの体を見、その上で画像に向かう。科学がどのように進歩しようともこの順番が変わることはありません。

腰痛は手術をすれば治るのか

 答えは否。腰痛の発生源はいろいろあります。椎間板、椎間関節、腰背筋、自律神経など。原因が違うのにひとつの治療で治るはずもないことは皆さんおわかりでしょう。そもそも人体には基本的に自然治癒力があります。ぎっくり腰は寝ていればやがて治ります。椎間板ヘルニアでさえ最近は自然に消えるヘルニアがあることがわかっています。自然治癒する腰痛の経過中に施した治療の有効性の評価には慎重でありたいものです。
 われわれの仕事は手術によって治る腰痛とそうでないものをまず診断することです。もちろん私の治せない腰痛もたくさんあります。かくいう私も腰痛がありますが、ヘルニアなどの病名の付かないいわゆる慢性腰痛です。こういうものは整体・マッサージなどの民間療法を受けてもいい腰痛で、私はそういうものを否定はしません。むしろそういうものがある程度有効である腰痛があることを認めます。鮫の軟骨とかはっきりとした効能がまだ証明されていないものに対してお金を使うのは、治る腰痛かそうでないかをはっきり診断してからでも遅くはありません。

最後に

 いかがでしたか?その“1”と書きましたが、その“2”もありますので、またの機会がありましたら!我々の腰痛の診断・治療には概ね科学的根拠があります。臨床医学の中でも年の若い整形外科では必ずしも学問と言えないような診断・治療が行われてきました。それが迷信を生み今なお患者さんを路頭に迷わせている最大の原因と言えます。世界的に有名な雑誌“SPINE(せぼね)”ですら、数を集めて統計学的有意差を出した論文が優先的に採用されるのが実情です。そもそも臨床医学のほとんどが統計学の力を借りずには科学として成り立ちません。しかしながらわれわれが日々直面する症例のひとつひとつの積み重ねは、例え少数であっても数千例以上の重みを持っています。腰痛の真実を教えてくれるのは教科書でも文献でもなく、他ならぬ患者さんそのものだと思いながら日々診療にあたっています。

写真解説

1.神経学診断の道具(写真1)
2.80代の女性が腰痛と下肢痛を訴えて来院。MRIでは腰椎のすべての椎間が黒く飛び出して悪いように見えます。これだけでは腰部脊柱管狭窄症と診断したくなるところです。(写真2)
3.神経学的検査で、痛みの原因は第3腰神経根と診断しました。神経根造影では痛みの再現性があり、局所麻酔薬により痛みが消えたため、この1箇所を手術すれば良いとわかりました。(写真3)
4.結局この方は腰椎変性側弯症という稀な病態のため、高齢ですが固定術というやや大がかりな手術が必要でした。悪い場所のみを手術することで手術時間は1時間半、出血は80g、傷口は8cmと最小限の侵襲でした。翌日から歩行を開始し、症状は治りました。(写真4)

インフォメーション

大規模津波防災総合訓練に参加

東海地震による津波を想定した「大規模津波防災総合訓練」が7月4日(土)、清水区貝島地区の清水港をメイン会場に県内各地で行われました。
この大規模津波訓練は、2004年12月に発生したスマトラ島沖大地震による津波の被害を踏まえて国土交通省の主導で行われ、静岡県では初めての実施となります。
訓練には、自治体や消防など防災関連機関51団体や地域住民約1万5千人が参加し、当院からも医師・看護師・薬剤師・事務の10名で編成した救護班が派遣されました。
訓練は御前崎沖20キロ付近の駿河湾でマグニチュード8.0の地震が発生し、住民が湾内に流されたという想定で行われました。救護員は医療活動を行うため、救護所の設置や患者の搬送、また、トリアージと呼ばれる重症度で被災者を振り分け、緊急性の高い傷病者から対応するための初期判断を医師や看護師が中心となり行いました。
いざという時に迅速に、そして的確に患者や傷病者の治療にあたれるよう、当院では今後も院内・院外の各種訓練に参加してまいります。

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