子どもの夜尿を考える

家族で見守り、根気強く治療!子どもの夜尿を考える

赤ちゃんの頃は誰でもしていた「おねしょ」、いったい何歳くらいまでに治るもの?「気になるけど、なかなか周囲に相談しにくい」というご家族のために、当院では毎週火・水曜に夜尿症患児の診察をお受けしています。
※事前予約やかかりつけ医の紹介状、母子手帳の持参をお願いします。小児科部長の大河原 一郎 医師に詳しいお話を伺います。

小児科部長 大河原 一郎 医師

静岡市出身。小児科医を志したのは、学生時代に様々な疾病を幅広く診られる奥深さに触れたことがきっかけだそう。「コロナ禍で不安が募る中ですが、基本となる健康管理はぜひきちんと。特にワクチン接種は忘れずに」

教えてドクターQ&A

夜尿症の原因について詳しく教えてください。
膀胱に問題があるのは「容量が少なかったり、容量は大きいのに夜間はためることができない」というケース。ホルモンに問題があるのは「脳から出る抗利尿ホルモンの不足で、腎臓で濃縮できないまま薄い尿が大量に作られる」というケースなど。睡眠中に問題があるのは、「尿が膀胱に溜まった状態なのに目が覚めない」というもの。複数の原因が重なっている場合もあるので、外来では診察した上で、より効果の出そうな治療法を提案していきます。
アラーム治療とはどんなものですか。
専用のセンサー付きアラームを使った治療で、一種のトレーニングのようなもの。おねしょの直後に本人を目覚めさせることで、無意識のうちに睡眠中の排尿を自分で抑制したり、尿意でトイレに起きたりできる状態を目指すものですが、家族など周囲の協力は必須です。

 
子どもが夜尿症に悩んでいるよう。周囲はどのように接したらいいですか。
一番大切なのは、周囲と比較しないこと。特に兄弟と比べて「弟(妹)は、もうしなくなったのに」「お兄ちゃん(お姉ちゃん)でしょ」などと叱るのは、子どもの自尊心を深く傷つけます。夜尿症は、本人の意志や親のしつけでコントロールできるものではなく、体の問題だということを頭に入れておいてください。

放っておけば自然に治る?誤解の多い「夜尿症」

睡眠中に無意識におしっこをしてしまい、布団などをぬらしてしまう「おねしょ」。生後間もない赤ちゃんは皆おねしょをしていますが、成長に従い少しずつなくなっていきます。では、何歳までおねしょをするのが普通なのでしょうか?
おねしょは医学用語では「夜尿症」と呼ばれ、「5歳以降で1ヶ月に1回以上の夜尿が3ヶ月以上続くもの」と定義しています。3歳では3人に1人とありふれていますが、5歳では5人に1人、小学校低学年で10人に1人、中学生で20人に1人と減っていきます(図1)。
夜尿症の原因は、膀胱に問題がある場合や、脳から送られるホルモンに問題がある場合、睡眠に問題がある場合などさまざまです(Q&A参照)。中には尿道や尿道口の奇形など、手術が必要なお子さんもいます。

 

本人の心の苦痛は想像以上、周囲の気づきが大切

夜尿症は命に関わる大きな病気ではありませんが、成長に従って、集団生活の中で悩む機会が増えてきます。近年では医学的にも、子どもの精神的重圧としての影響が分かってきていて、ある調査では8〜16歳の子どもにとって、夜尿症があることはいじめに遭う以上の悪影響を及ぼしているとの報告も。夜尿症に早めに気づくことは、子どもの健やかな成長のためにも重要だと考えます。

 

治療は根気が必要な長期戦大事なのは家庭の協力

次に治療法についてです。日本夜尿症学会ではこれまで行われてきた治療を医学的に整理したものを「夜尿症診療ガイドライン2016」としてまとめていて、当院で行っている診療もこのガイドラインに基づいています(図2)。
図2
まず取り組むのは、生活習慣の改善。具体的には就寝前3時間の飲食禁止、減塩を心がけた食生活、便秘への対処などに取り組んでいただきます。「そんなこと?」と思うかもしれませんが、中にはこうした改善を続けるうちに治ってしまう子もいるほど。それくらい、生活習慣は重要です。こうした生活改善をしばらく続けても変化が見られない場合には、アラーム療法(Q&A参照)や抗利尿ホルモン製剤による治療などを実施します。
いずれの場合も、はっきりとした効果が現れるまでには数ヶ月以上かかります。大事なのは適切な方法を早めに見つけて、正しく実施し、長期的な視点で見守ること。夜尿症は本人の意思や心がけで治るものではありません。子どもだけの問題と考えず、親も一緒に、粘り強く取り組んであげてくださいね。